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朝日新聞生活面連載記事「踏まれたスカート 安倍政権と女性」(2007.7.10〜12)

(12.11.24 upload)

 「戦後レジームからの脱却」「美しい国」を主張し、小泉純一郎氏の後継として内閣総理大臣に就任しながら、参議院選挙に惨敗、そして内閣総理大臣の職を投げ出した安倍晋三氏は、男女平等に反対でした。そのことは見えにくかったかもしれませんが、2007年の7月、朝日新聞生活面に、「踏まれたスカート」と題する3回の記事が掲載されていました。自民党総裁に返り咲き、総選挙に臨んでいる彼とその政策を思い出していただくため、この重要な記事をお知らせします。


「踏まれたスカート 安倍政権と女性:(上)子育て支援に暗雲」(2007.7.10)


 社会の変化に応じて、女性が子どもを育てやすく、働きやすいように積み重ねられてきた政策が、「伝統的家族観」を重視する安倍政権のもとで揺り戻されようとしている。スカートのすそを踏まれたみたいに、身動きがとれなくなる女性たち。その現場を、3回にわたって報告する。

●「完璧な母」意識し孤立感

 「人間の言葉を話したくてたまらなかった」
 大阪府の主婦中村博美さん(36)=仮名=は、長男(5)が「バー」「ブー」「ダー」しか言わなかった頃の孤独を打ち明ける。
 結婚して大阪へ。知り合いもなく、夫の帰宅は深夜。子どもが減って、地域の公園にもママ友達を見つけられない。
 情報誌で知った育児サークルへ入った。愚痴をこぼす仲間はできたが、「真剣に育児の悩みを話すと相手に引かれてしまいそうで、できなかった」。サークルで長男がトラブルを起こしても、注意の仕方がわからない。周りのお母さんたちは完璧(かんぺき)に見えた。「ダメな母親だ」と自分を責めた。
 そんなとき、サークルの研修で、カナダ生まれの親支援プログラム「完璧な親なんていない」(ノーバディーズ・パーフェクト、NP)に参加した。「トイレ訓練」など参加者が話し合うテーマを決め、互いの考え方や育児の方法を決して否定しないのが特徴だ。
 狙いは、育児には様々な方法があり、唯一の正解はないと気づくこと。「他のお母さんたちと初めて濃密な会話ができた。親は完璧でなくてもいいんだと励まされた」と中村さん。
 大阪人間科学大学の原田正文教授らによる03年の調査では、近所に話し相手がいない母親は32%で、1980年から倍増した。子どもに体罰をする母親は3歳時点で67%だった。
 NPを日本に広める活動をしている原田教授は「今の問題は地域が崩壊して母親が孤立していること。子育てを家族だけに任せていたら少子化は止まらない」。

●政府、「親の責任」に軸足

 だが政府の少子化対策は、社会全体での子育て支援から、親の子育て責任の強調へと軸足を移そうとしている=メモ。
 安倍首相の肝いりで始まった教育再生会議は5月、母乳による育児など子育ての「あるべき姿」を示す提言を用意した(与党内でも異論が出て撤回)。「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議の分科会でも、「規範意識を教えられる専業主婦の役割が重要」と男性委員らが強調。専業主婦経験もある女性委員が「子育て支援の現場では、母親が働いているかどうかは関係ない」と応酬する一幕があった。
 中村さんは、不安を感じている。「私たちは、母親としての評価をとても気にしている。国に『さあ、教えますよ』と言われたら、その方法が自分の子どもや現実の生活と合っていなくても、『どうぞ教えてください』と言ってしまうと思います」
 恵泉女学園大学の大日向雅美教授は「子育て支援は息の長い活動で、予算もかかる。国が再び母性や家庭責任を強調し始めた背景には、財政の厳しさもあるのではないか」とみる。
 大日向教授が施設長を務める「子育てひろば あい・ぽーと」(東京都港区)は、働いていない親でも理由を問わず子どもを預けることができる。子育て支援者の養成講座も開く。受講生の大半は中高年世代だ。
 講座を終えて一時保育に携わる中沢美千代さん(60)は「母親が子どもを預けるなんてとんでもないと思っていたけど、一人っ子は保育園にでも行かないと同年代の子と遊べない。時代に応じて子育ても変わっていいと気づいた」と話す。
 「家族で食卓を囲む大切さについて話して下さい」
 出版社に勤める東京都の三浦直美さん(34)=仮名=は5月、小学生の長女の担任から、PTA役員を通じてこう頼まれた。道徳の公開授業で、母親数人が話すのだという。  三浦さんは迷った。3世代同居だが生活時間はばらばらで、全員一緒に食卓を囲むのは週末だけ。それにクラスには、ひとり親家庭の子もいるだろう。受験塾に通う子たちは、夜も塾で弁当を食べると聞く……。
 悩んだ末、「食卓を囲めないのは子どものせいじゃないのに、子どもに『囲みましょう』と言えない」と答えた。担任は「じゃあ、別の人に頼みましょうか」と、やんわり断ってきた。
 政府のインターネットテレビで公開されている動画「安倍総理のライブ・トーク官邸」。首相は「毎日家族そろって夕食をするのは全国で3割」と嘆き、「大切なことは家族そろって食事をする時間をもつこと」と訴えている。
 一方、「総理の子どもの頃は?」との質問には「父は政治家で忙しかったので、家族一緒に食事ができるのは月1回でしたね」。
 総務省の調査では、男性の仕事からの帰宅時間は、01年の全国平均で午後7時29分、東京都と神奈川県では午後8時を過ぎていた。

「踏まれたスカート 安倍政権と女性:(中)女性の決定権、やり玉」(2007.7.11)


●性教育に「処分」…現場二の足

 「僕もあなたをかばいきれなくなったよ」
 都内の小学校に勤務する男性教員(50)は数年前、異動を言い渡した校長の言葉を忘れられない。その一言が、異動の理由を物語っていた。性教育に熱心だったからーー。翌春、自宅から1時間半かかる学校への転勤が決まった。
 90年代からこの教員は、「性」を子どもたちにどう伝えるか、教員仲間と議論を重ねていた。世間には興味本位の性情報があふれている。しかし、「性」には生物学的な違いはあるが、優劣はない。互いの性を尊重することの大切さを学んでほしい。そのために性教育が必要だ。そうして初めて男女平等の意味も理解できると考えている。
 保護者とも話し合った。「子どもが性の情報に初めて接する場がアダルトサイトでいいですか」。そう問いかけると、多くの保護者は「学校できちんと教えてほしい」と望むという。
 しかし02年5月、衆議院の文部科学委員会での山谷えり子議員(現・首相補佐官)の発言で、流れは大きく変わった。山谷議員は中学生向けの性教育用冊子「ラブ&ボディBOOK」(母子衛生研究会作製)の中絶やピルによる避妊の記述を取り上げ、「女性の自己決定権」を問題視。夏には絶版・回収となった。
 その後、各地の議会で一部の議員が学校での性教育を「過激」と発言。東京都では03年夏、性教育批判を続けていた都議らが都立七生養護学校を訪れ、性教育の教材として使っていた人形などを調べた。翌日の産経新聞は、「過激性教育」などと報じた。
 2カ月後、都教育庁は22校102人の校長や教員らを処分した。「性教育は処分理由の一つ。すべての状況を勘案して不適切な実態があると判断した」(都教育庁職員課)という。一般教員への降格と停職1カ月という重い処分は、七生養護の校長ただ一人だった。
 都内の小学校の女性教員(50)は当時、勤め先の校長が「まさか降格処分までするとは……」と驚いていたのを覚えている。「あれ以来、都の意向ばかり気にする風潮が強まり、性教育にはふれにくくなった」
 学校での性教育を続ける渋谷区の産婦人科医、東哲徳さん(60)も、そんな空気を感じている。学校側から、細かな内容の事前提示や言葉の修正を求められるという話を、医師仲間から聞くようになったからだ。
 東さんはいま、東京産婦人科医会が作った性教育用スライドを、都立高の授業で使うため半分程度の40〜50枚に絞り込んでいる。都教委には「学習指導要領内で」と求められるが、臨床医として強調したいこととは必ずしも合致しない。
 「倫理的な目標だけでは若年層の性感染症や望まない妊娠・中絶は減らない。学校側や保護者も納得してくれる点を探りながら、子どもたちが具体的な対処方法や、相手の性を尊重できるような授業にしたい」

●家庭科にも強まる国家色

 04年度の中学校教科書検定では、家庭科の教科書から「ジェンダー」という語が検定で削除された。「ジェンダー」は社会的・文化的に作られた男女差をさすが、「誤解するおそれのある表現」との理由だった。
 性別役割分業にとらわれないという意味の「ジェンダーフリー」もやり玉にあがる。安倍首相は著書「美しい国へ」の中で、ジェンダーフリーを「生物学的性差や文化的背景もすべて否定する」ものだとし、「家庭科の教科書などは、『典型的な家族のモデル』を示さず、『家族には多様なかたちがあっていい』と説明する」と問題視している。
 家庭科教科書の執筆者で、教科書検定の検証を続ける鶴田敦子聖心女子大教授は、首相が特定の家族観を強調することを警戒する。「国家が期待する家族像を強調し、家庭科教育にも持ち込むなら、教科教育ではなく道徳教育になってしまう」と心配する。
 家庭科教師らで作る家庭科教育研究者連盟会長の齊藤弘子さん(64)は、06年2月の中教審初等中等教育分科会教育課程部会の審議経過報告に驚いた。社会科などとともに、家庭科が「国家・社会の形成者としての資質の育成」のための教科とされていた。「戦後、このような位置づけをされたことはなかった。自分らしく生きることより国家が強調されている」
 03年に、ベネッセ未来教育センター(現ベネッセ教育研究開発センター)が行った高校生の意識調査はこうだ。「専業主婦のいる暮らし」を望む生徒は、1980年には男子83・2%、女子54・5%だったが、03年は男子45・5%、女子25・3%に。「夫がしっかりリードする」夫婦の形を望む生徒は、80年の33・6%が、92年は16・6%、03年には8・2%へと減った。
 「一部の政治家が望むことと、子どもたちの実態はかけ離れているのではないか」。齊藤さんは、そう感じている。

 <家庭科・性教育と男女平等> 85年、あらゆる分野で男女平等を実現する義務を課す国連の女性差別撤廃条約を日本政府が批准した。これにより、「女性は家庭に」という考えに基づく家庭科教育が見直され、93年に中学、94年に高校で男女共修となった。また、同条約は妊娠や出産、中絶など女性の心と体にかかわる重大な決定は女性自身が下すという考え方が基本にある。その判断をするための情報を提供し、男女平等の精神に基づく性意識を養う目的で、学校での性教育が各地で実践されるようになった。90年代には行政も率先し、広まっていった。

「踏まれたスカート 安倍政権と女性:(下)裂かれた男女共同参画」(2007.7.12)


●各地で摩擦、条例「逆戻り」

 「この条例ではやっていけない」。今年2月、千葉県市川市の男女平等推進審議会の委員15人のうち、団体推薦の5人を除く全員が一斉に辞表を出した。  発端は、保守系市議らが提案し、昨年12月に4票差で可決した男女共同参画社会基本条例だ。
 男女共同参画社会基本法=メモ=制定を受け、同市では02年、男女平等基本条例が誕生。「家族一人一人がジェンダーにとらわれることなく」との文言や「市の付属機関の委員は男女どちらかが4割を下回らない」との条項があった。ジェンダーは社会的・文化的に作られた性差のことだ。
 新条例ではこれらが消え、「男らしさ、女らしさを否定することなく」の文言が入った。新条例推進派の高安紘一議員は「主婦や性差の否定はよくないという総意の表れ」という。
 前市議で最初の条例の制定にかかわった石崎多加代さん(55)は「主婦歴17年の私が、主婦をおとしめる条例を作るはずがない。生き方を選べる社会が必要なのに、これでは少子社会を乗り切れない」という。
 茨城県つくば市では、06年4月に男女共同参画推進課が「室」に格下げされた。男女共同参画に熱心な前市長が04年の選挙で交代してから、市の共同参画政策を話し合う審議会は実質的に1度も開かれないまま。会長で筑波学院大教授だった長田満江さん(71)が市長に審議会開催を求めたが、「新たに諮問すべきことはない」。06年6月に任期が切れた。
 長田さんは、「ようやく社会全体で役割分業の問題に取り組む時代がきたと思ったら、たちまち逆戻りした」とがっかりする。
 一方、岐阜県可児市議会では、市が提案した参画条例に男性議員が「性差の存在を認めるべきだ」と修正を求めた。市民が説明会などを開き、「性差の否定ではなく性別役割分業の問い直しだ」と他の議員たちの理解を求め、反対1で原案通り可決された。

●「女性も労働力」政策と矛盾

 各地の自治体で、こんなつばぜり合いが頻発している。性差を強調する議員らのよりどころは、06年からの政府の新男女共同参画基本計画だ。
 計画策定中の05年春、自民党幹事長代理だった安倍首相が座長を務める自民党の「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」がシンポジウムを開いた。安倍氏は基本法について「根本的に考え直してみる必要はあるのかなと思います」と見直しを示唆。このような動きに押される形で、新基本計画に「ジェンダーフリーの言葉 を使って性差を否定したりすることは男女共同参画とは異なる」との文言が入った。
 首相になった安倍氏は、ワークライフバランス(仕事と生活の両立)を提唱する一方で、新基本計画の順守を強調する。都内の自治体関係者は「新基本計画の文言が響いて、最近では『男は仕事、女は家庭』を見直す講座さえ開けないムード」という。
 性別役割分業を肯定する声と、女性労働力を求める流れとの間で、女性たちは引き裂かれつつある。
 首都圏の中小企業の正社員だった40代の女性は、6月に解雇を言い渡された。学校行事や子どもの病気で有給休暇を何度もとったことが理由だった。夫は契約社員。「これからどうすれば」と悩む日々だ。
 学校のPTAは役員会が昼に開かれ、たまには夕方以降にと頼んでも「母親は家にいて当然」と言われた。母親にはバザーや学校のカーテン洗いなどの「お手伝い」も求められる。
 子どもが病気になっても病児保育の枠は少ない。「一体、どうしろというのか」と女性。解雇は不当だと会社と交渉している。
 高木郁朗・前日本女子大教授が大学院生らと行った政策検証によると、日本では欧米諸国と異なり、家族政策の予算が増えても、国民所得が上がっても出生率が下がり続けている。違う方向の政策が同時に出て、効果を打ち消すからだ。
 07年度の少子化対策予算では、家庭での保育にも配慮をとの与党議員らの声で児童手当が最も増えた。しかし、手当で子どもを増やすには、女性が働かずにすむほど多額の予算が必要だと高木さん。「少子化で女性の労働力も必要になるのに、保育所は民営化され、労働時間の規制は緩められようとする」
 政府の「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議メンバーの樋口美雄・慶応大教授は「85年に、男女雇用機会均等法の制定と、主婦を第3号被保険者とする年金改革を同時に行うなど、政策がばらばら。同会議報告でワークライフバランス憲章を提案したのは、多様な政策を一貫したパッケージで考えるため」と話す。
 女性政策が迷走するなか、市民団体「北京JAC」は6月下旬、各党に男女共同参画社会基本法推進の具体策を問う公開質問状を出した。今年の統一地方選で当選した市議の女性比率は14%と過去最高。女性議員増加の機運を有効な女性政策へとつなげられるかが、参院選でも問われる。

 <男女共同参画社会基本法>
 女性差別撤廃条約を実施するため99年に制定。少子高齢社会に対応するため、性別にかかわりなく個性と能力を発揮できる男女共同参画社会の実現を「21世紀のわが国社会を決定する最重要課題」と位置づけ、国、地方公共団体、国民の責務を規定。政府には男女共同参画基本計画を、都道府県には男女共同参画計画を策定するよう義務づけ、市町村は計画策定に努めるよう求めている。

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